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一般社団法人日本生殖医学会

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ホーム > 一般のみなさまへ:生殖医療Q&A > Q24.加齢に伴う卵子の質の低下はどのような影響があるのですか?

一般のみなさまへ

質問年齢が不妊・不育症に与える影響
Q24.加齢に伴う卵子の質の低下はどのような影響があるのですか?

回答

 女性の妊娠率は年齢とともに低下し、特に35歳を超えると自然妊娠や体外受精(IVF)においても成功率が低下します。これは、卵巣内にある卵子の「数(量)」だけでなく「質」にも加齢の影響が及ぶためです。卵子の質が低下することで、受精率、胚の発育、着床率がすべて低下し、加えて染色体異常による流産や胎児異常のリスクが高まります。残念ながら、卵子の質の低下を防ぐ方法はないのが現状です。
 卵子は女性が胎児の時にすでに作られており、生まれた時点で約200万個の卵子(正確には卵母細胞)を保有しています(図1)。その後、思春期までにその数は30万個程度にまで減少し、さらに年齢とともに急速に減少していきます。排卵されるのはごく一部であり、生涯の内で400~500個(1%以下)にすぎません。また、37歳を過ぎると卵子数の減少が加速し、1,000個以下になると閉経します。

図1 年齢による卵細胞数の変化
図1 年齢による卵細胞数の変化

 卵細胞は妊娠5ヶ月まで700万個(両側卵巣)と著しく増加するが、その後減少し、出生時には約200万個となる。さらに、初経の時期には30万個まで減少する。Bakerの論文(Baker TG. A Quantitative and Cytological Study of Germ Cells in Human Ovaries. Proc R Soc Lond B Biol Sci. 158: 417-433, 1963)をもとに図を作成。

 こうした卵子数の減少に加えて、加齢に伴う卵子の質的な劣化が、妊孕力(妊娠する力)の低下に大きく関わっています。特に問題となるのが、卵子の染色体異常です。体の細胞は46本の染色体を持っていますが、卵母細胞が排卵する卵子になるまで、2回の分裂(第一、第二減数分裂)を経て23本の染色体を持つようになります。加齢により、この分裂の際の染色体分配エラー(不分離)が起こりやすくなると考えられています(図2)。その結果、受精卵の染色体数が異常となり、流産や胎児の染色体異常(例:ダウン症など)を引き起こす原因になります。この原因の一つとして、加齢に伴い減数分裂を制御するタンパク質(コヒーシンなど)が劣化するためであると考えられています。

図2 染色体の不分離による卵子の染色体異常
図2 染色体の不分離による卵子の染色体異常

 卵母細胞は2回の分裂(第一・第二減数分裂)を経て23本の染色体になります。23本の染色体を持った精子と受精すると、受精卵の染色体は46本となる。一方、卵子の老化により染色体の不分離が起こることが知られているが、染色体の不分離の起こった卵子の染色体は24本となる。23本の染色体を持った精子と受精すると、受精卵の染色体は47本となり染色体異常の受精卵ができる。

 さらに、卵子の質の低下には染色体異常だけでなく、他にも複数の要因が関与しています。たとえば、ミトコンドリアの機能低下により卵子のエネルギー産生が減少し、胚発生が不完全になることがあります。その他にも、加齢によりDNA損傷修復能力に異常が生じることも示されており、こうした要因が複合的に卵子の質を低下させます。さらに、加齢に伴って卵子を取り囲む卵巣の細胞(顆粒膜細胞や卵丘細胞)の機能も低下することで、卵子の発育やホルモン応答性が損なわれることが報告されています。
 加齢による妊娠率の低下が、卵子の質の低下に起因することは、卵子提供を受けた治療結果からも明らかです。自分の卵子を用いた体外受精では、年齢が上がるにつれて出産率が低下しますが、若年女性の提供卵子を用いた場合には、女性の年齢にかかわらず高い妊娠率が維持されます(図3)。これは、加齢による卵子の質の低下が主要因であることを示しています。

図3 提供(ドナー)卵子と自身の卵子を用いた生殖補助医療による治療成績
図3 提供(ドナー)卵子と自身の卵子を用いた生殖補助医療による治療成績

 患者自身の卵子を用いた場合(青色)と若年女性からの提供(ドナー)卵子を用いた場合(赤色)の生殖補助医療による生産率を示した。患者自身の卵子を用いた場合は、年齢の増加に伴い生産率は低下するが、ドナー卵子を用いた場合は、年齢による生産率の低下は認められない。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が発表した2003 ART Success Rates in USAのデータを用いて作成。

 このように、加齢による卵子の質と量の低下は、自然妊娠のみならず生殖補助医療においても避け難い影響を及ぼします。近年は卵子凍結技術の進歩により、若いうちに卵子を保存して将来に備える「社会的卵子凍結」が広がりを見せています。保存した卵子は、本人が高齢になってからも使用することができ、若い卵子の質を保ったまま妊娠の可能性を残すことができます。卵子凍結に関するガイドラインや支援制度も整備が進みつつあり、今後ますます重要な選択肢の一つとなると考えられます。妊娠を希望する女性にとって、年齢と卵子の状態を正しく理解し、カップルで将来の妊娠や治療計画について早い段階から話し合うことが望ましいでしょう。

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