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一般社団法人日本生殖医学会

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ホーム > 一般のみなさまへ:生殖医療Q&A(旧 不妊症Q&A) > Q15.男性不妊の場合の治療はどのようになるのですか?

一般のみなさまへ

質問治療
Q15.男性不妊の場合の治療はどのようになるのですか?

回答

 男性不妊の場合は、原因に応じて、内科的治療(薬物療法)や外科的治療(手術)が行われます。

1)性機能障害

(1)抗うつ薬
 射精時、精液が膀胱に逆流する逆行性射精の症例に対して用いることがあります。
(2)PDE-5阻害薬
 勃起不全(ED)の治療薬として用いられ、EDが不妊原因の一つである場合に用います。
(3)射精障害に対する治療
 精子形成に問題がなくても、誤ったマスターベーションの方法に慣れてしまっているため、性交時に射精できない場合があります。器具を用いてマスターベーションの方法を矯正できるか試みますが、場合により人工授精が必要なこともあります。
(4)人工授精
 性機能障害の治療を行っても無効な場合、あるいは希望しない場合や高齢の夫婦で妊娠を急がなければならない場合、人工授精を行います。

2)軽度~中等度の精液性状低下

(1)内科的治療
①生活習慣等、男性不妊の原因になりうる因子の除去
 精子形成や射精を障害する可能性がある薬剤、喫煙、アルコール過剰摂取等、男性不妊の原因になりうると考えられるものがあれば、可能な範囲で中止します。また、サウナや長時間の入浴、ひざ上でのコンピューター使用等、精巣を長時間の高温環境におく可能性がある因子はできるだけ避けるべきです。

②非内分泌療法(漢方薬、ビタミン剤、血流改善薬等)
 精子の数が少ない症例や、運動率が低い症例に投与することがありますが、統計学的に精液所見や妊娠率の改善に対する明確な有効性が示された治療法は少なく、経験的治療が主体となっています。

③内分泌療法 (hCG、FSH療法)
 脳の視床下部あるいは下垂体の機能不全が原因でおこる精巣機能不全症例(低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)に対して行います。先天性のものと脳手術後など後天的なものがあります。定期的な注射が必要ですので、患者さん自身に自己注射をしていただく場合が多いです。低ゴナドトロピン性性腺機能低下症は、治療前の状態が無精子症であっても、薬物療法により著明な精液所見の改善が望める、数少ない疾患の一つと言えます。

(2)人工授精
 軽度~中等度の精液性状低下の場合、人工授精で妊娠することがあります。

(3)精索静脈瘤に対する手術
 精索静脈瘤は、精液所見の悪化、精子のDNAダメージ、男性ホルモンの低下、陰嚢痛などの原因になり、自然妊娠だけでなく、婦人科治療の成績を低下させます。
 手術は、精索静脈瘤を有し、精子形成障害をきたしている、もしくは将来の精子形成障害が危惧される症例に対して行います。手術方法としては、逆流の原因となっている精巣の静脈を結紮しますが、その位置によって高位結紮術と低位結紮術があります。一般的には、手術用顕微鏡を用いた顕微鏡下精索静脈瘤手術が多く行われ、術後に精子形成能の改善による精液所見の改善と妊娠率の向上が期待されます。

3)高度の精液性状低下・無精子症

(1)精子採取術+顕微授精
 様々な方法を試みても精液中から精子を回収することができない場合に行います。これらの方法で採取した精子は生殖補助医療(顕微授精法)で卵子と受精させることになります。

①精巣精子採取術(simple-TESE)
 陰嚢の皮膚を小さく切開し、精巣組織の一部を採取する方法です。採取した精巣組織に精子が確認されれば、顕微授精に使用します。閉塞性無精子症の症例で、精路再建術が困難もしくは不成功であった症例に行います。閉塞性無精子症の場合は精巣内での精子形成が盛んなため、多くの場合は精子の採取が可能です。

②顕微鏡下精巣上体精子採取術(MESA)
 閉塞性無精子症の一部の症例では、精巣を切開せずに精巣上体から精子採取を試みることがあります。

③顕微鏡下精巣精子採取術(micro-TESE)
 非閉塞性無精子症の場合は、精巣内での精子形成が極度に障害されていることが多いため、陰嚢の皮膚切開から精巣を体外に出し、手術用顕微鏡を用いて精子形成のある場所を綿密に探し、精子の採取を試みます。非閉塞無精子症の場合は、この方法を用いても残念ながら精子を採取できないこともあります。

(2)精路再建手術
 精路(精子の通り道)に閉塞がある場合にその部を取り除いて精路を再建します。その閉塞部位によって方法が異なります。精路再建手術は、精路通過障害を解除できれば、射出精液中に精子が認められ、自然妊娠が期待できる治療法です。

①精管精管吻合術
 パイプカット術後や鼠径ヘルニア術後など、精管の閉塞が原因で無精子症を呈している症例に行います。閉塞部位の末梢側と中枢側の開通している精管同士をつなぎあわせる顕微鏡下精管精管吻合術が行われます。閉塞していた期間や原因等にもよりますが、術後には約80-90%の症例で精液中に精子の出現が認められます。

②精管精巣上体吻合術
 精巣上体炎後等、精巣上体での閉塞が原因で無精子症を呈している症例に行います。精巣上体の一部を切開し、精管とつなぎあわせる顕微鏡下精管精巣上体吻合術が行われます。閉塞の原因にもよりますが、約40%程度の症例で、術後に精液中に精子が出現します。

③射精管解放術
 前立腺嚢胞等が原因で、射精管(前立腺にある精液が尿道に出てくる部位)の閉塞がある症例では、経尿道的内視鏡を用いた射精管解放術を行います。これにより、精液量と精液所見の改善が見られます。

(3)非配偶者間人工授精(AID)
 精巣精子採取術を行っても精子の得られない無精子症や、高度の精液性状の低下・無精子症の方で(1)、(2)に示したような治療をおこなっても妊娠に至らない場合、御夫婦の強い希望があれば非配偶者(夫以外の提供者)の精子を用いた人工授精治療を考慮することも出来ます。本邦のAIDは匿名の提供者の精子を人工授精に用いることが原則となっておりますが、AIDでは凍結処理をした精液を人工授精に用いるため、妊娠率は高いとは言えないのが現状です。また、無事挙児を得ることができたとしても、AIDでは父親と子どもに遺伝的なつながりがなくなること、将来的に子どもにAIDの事実を伝えるかどうかなど、子どもが出来てからも考え続けなければならない問題が多く、どの御夫婦にも勧められる治療法ではありません。専門医に相談して、施行するかどうか慎重に考えて下さい。

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