体外受精は、採卵手術により排卵直前に体内から取り出した卵子を体外で精子と受精させる治療法です。体外で正常に受精し、順調に育った胚(受精卵)は、妊娠につながりやすいといわれています。そこで一般的には、2~6日間体外で育てたうえで、状態のよい胚(良好胚)を選び、腟から子宮の中に戻します。
1)治療の流れ
採卵手術の前には、多くの場合調節卵巣刺激とよばれる方法で、数個から10個前後の成熟した卵子を採取できるように、排卵誘発剤を1週間ほど使用します。排卵誘発剤には内服や注射製剤があり、個別の状況に応じて薬剤や量を調整し、反応を見ながら採卵日を決定します。卵巣の反応は個人差が大きく、発育卵胞数が予想よりも少ないことや、卵巣過剰刺激症候群という副作用が生じて状態によっては入院加療が必要になることもあります。
採卵手術は、経腟超音波検査で観察しながら腟から卵胞を穿刺し、卵胞液とともに卵子を吸引して行います。予測される採卵数や採卵の困難さをもとに麻酔を行うか無麻酔で行うかを決定します。移植では、採卵手術後に引き続き移植を行う新鮮胚移植と、得られた胚を一旦凍結保存する凍結融解胚移植があります。凍結融解胚移植では、次の月経周期以降にホルモン補充を行って、もしくは自然の月経周期において、妊娠に適した子宮内膜の発育を確認し凍結胚を融解して移植します。日本産科婦人科学会は2008年6月に妊娠・分娩における母児リスクが高くなる多胎妊娠を防止する目的で移植胚数1個を原則とする見解を示しています。
2)体外受精の現状
体外受精(を含む生殖補助医療)による出生児は全世界において2024年時点で1,300-1,700万人に達したともいわれ、本邦では2022年に生まれた子どものおよそ10人に1人が体外受精で生まれたと発表されています。一方で、一度の治療で必ずしも妊娠に至るとは限らず、何度か挑戦が必要になることもあり、時間や費用、身体への負担も伴います。しかし、2022年4月から基本的な生殖補助医療が保険適応となったことで、経済的な負担が低減しています。また、多くの医療機関が通いやすい工夫をしており、現在は働きながら治療を受ける方も増えています。年齢や健康状態、治療の経過によって最適な治療法は異なるため、医師とよく相談しながら無理のない形で進めることが大切です。
体外受精(あるいは次項の「顕微授精」)では、精子と卵子を顕微鏡観察により体外で受精させるチャンスを設けることができます。受精や受精後の発育を経時的に観察することなどにより、不妊要因が新たに明らかになる場合もあります。充分な凍結胚が得られれば、次のお子さんを目指して、採卵時の年齢でのより高い妊娠率かつより低い流産率を期待できます。また、タイムラプス培養やアシステッドハッチングなど、胚の選別や着床率向上を目指す技術の導入も進み、先進的な検査や技術が日々更新されています。
年齢とともに妊娠率は低下することがより明らかになってきました。仕事や家庭環境・併存する病気などのために、希望する数のお子さんを希望する時期に得ることが困難なことがあります。精子や卵子の力が低下する前に、一般不妊治療を早めに切り上げることや、最初から体外受精を検討することも、選択肢の一つとして前向きに知っていただけたらと思います。医療機関でご相談いただけたら幸いです。
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