不妊症の治療は、妊娠の妨げとなっている原因に合わせて、もっとも適した方法を選びながら進めていきます。妊娠しにくい原因には、女性側では「排卵がうまくいかない(排卵因子)」「卵管が詰まっている(卵管因子)」「子宮に問題がある(子宮因子)」「胚の受け入れや維持がうまくいかない(免疫性)」などがあり、男性側では「精子の数が少ない・動きが悪い(造精機能障害)」「精子の通り道に問題がある(精路通過障害)」「性機能に関する問題(性機能障害)」などがあります。ただし、詳しく検査しても原因が見つからない「原因不明の不妊症」も、全体の10~30%ほどあると言われています。こうした原因に対して治療を行っても妊娠に至らない場合は、ある程度の期間で治療方法を次の段階に進める(ステップアップ)ことが勧められます。
治療は、身体的・経済的に負担の少ない「タイミング法」、排卵時期に合わせて子宮内に精子を注入する「人工授精」、体外受精や顕微授精といった「生殖補助医療」があります。適切な時期に性交した場合、累積妊娠率は6周期で高止まりします。同様に、人工授精でも4~6回を目安に効果が頭打ちになるため、それ以上うまくいかなければ次の治療法に進むことになります。
治療の進め方は、女性の年齢や卵巣予備能、男性の精液所見などを参考にしながら決めていきます(図1)。
また、持病をお持ちの方などは、個別の事情に応じて、相談しながら進めていくこともあります。
1)タイミング法
排卵日を予測して性交のタイミングを合わせる治療です。まず、排卵予定日より前に、経腟超音波検査で卵巣内の卵胞という卵子が入っている袋の大きさを測定します。一般に、卵胞の直径が20mmくらいになると排卵するとされており、この計測値から排卵日を推定します。さらに、排卵の引き金となる黄体化ホルモン(LH)の尿中または血中の値を測定することで、排卵のタイミングをより正確に把握することができます。排卵日の2日前から排卵日当日までに性交渉があると妊娠しやすいと言われています。
2)排卵誘発法
内服薬や注射薬によって卵巣を刺激して排卵を起こさせる方法です。通常、排卵のない方や排卵が起こりにくい方に行いますが、タイミング法や人工授精の妊娠率を高めるために使用されます。詳しくは、Q9.排卵誘発薬にはどんな種類がありますか?を参考にしてください。
3)人工授精
精子に問題がある男性不妊症が主な適応となります。採取した精液から運動している成熟精子を洗浄・回収し、それを排卵の時期にあわせて細いチューブを用いて子宮内に注入することで妊娠を試みる方法です。詳しくは、Q10.人工授精とはどういう治療ですか?を参考にしてください。
4)生殖補助医療
体外受精/顕微授精・胚移植は生殖補助医療に含まれます。腟から卵巣に針を刺して卵子を取り出し(採卵)、体外で精子と受精させて、後日受精胚を子宮内に返します(胚移植)。顕微授精は、卵子の中に直接にひとつの精子を注入して受精させる方法で、卵子と精子が自然に受精できない受精障害の場合に行われます。いずれも、他の治療によって妊娠が得られない難治性不妊症が対象になります。詳しくは、Q12.体外受精とはどんな治療ですか?、Q13.顕微授精とはどんな治療ですか?を参考にしてください。
5)加齢と妊娠について
不妊症の原因に応じて上記の治療を行えば、誰もが必ず妊娠できる、というわけではありません。卵巣手術の既往、子宮内膜症や子宮筋腫などの基礎疾患の存在が妊娠の妨げになることもありますが、誰もが避けることのできない因子が加齢の問題です。加齢が進むと、卵子や精子の数が少なくなり、質も低下することがわかっています。そのため、たとえ体外受精や顕微授精を行ったとしても、受精しない、もしくは胎児に発育できない、といった状況となり、妊娠・出産することが困難になります。それぞれの患者さんの状況に合わせた治療選択が重要であり、治療を徐々にステップアップするだけでなく、早期に生殖補助医療をすすめることも選択肢の一つになります。
6)内視鏡手術
検査としても治療としても行われます。腹腔鏡検査においては、卵管周囲の癒着や子宮内膜症などの病気がみつかることがあり、検査を行うと同時に治療を行えるメリットがあります。子宮鏡および卵管鏡は経腟的に行われます。子宮鏡手術では、妊娠の妨げになるような子宮内膜ポリープや子宮粘膜下筋腫を摘出することができます。卵管鏡手術では、閉塞している卵管にチューブを通して開通させ、自然妊娠する可能性を高めることができます。
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