ページの先頭です

一般社団法人日本生殖医学会

MENU
English
ホーム > 一般のみなさまへ:生殖医療Q&A(旧 不妊症Q&A) > Q19.不育症の原因にはどういうものがありますか?

一般のみなさまへ

質問不育症
Q19.不育症の原因にはどういうものがありますか?

回答

 不育症の4大原因は、抗リン脂質抗体陽性、子宮形態異常、夫婦どちらかの染色体異常保因、胎児(胎芽)染色体異常です(表1)。「原因」とは、次回妊娠での流産・死産に強く影響を及ぼす因子のことです。

表1 不育症の原因と検査法
表1 不育症の原因と検査法

 不育症患者1676組を対象とした研究では、原因の割合は、抗リン脂質抗体陽性例10.7%、子宮形態異常形3.2%、夫婦どちらかの染色体異常保因6%、糖尿病、甲状腺機能低下症などの内分泌異常12%の頻度であり、約70%が原因不明でした。原因不明の割合が高いことは、全ての流産症例で子宮内容物(胎児もしくは胎芽)の染色体検査が行われているわけではないことと関連があります。
 胎児染色体検査が行われた不育症482組の原因頻度を調べたところ、41%は胎児染色体異常のみがみられ、胎児染色体正常を示す真の原因不明は25%に留まることがわかりました(図1)。この研究では、胎児染色体検査が複数回実施されている症例では、染色体異常は異常を繰り返し、正常核型は正常を繰り返す傾向にありました。米国の同じような研究で、胎児染色体異常が50%、真の原因不明が5%ということも発表されました。流産を繰り返す前に出産したことのある症例もしくは40歳以上の女性では胎児染色異常が高頻度であり、抗リン脂質抗体症陽性例、子宮形態異常は稀でした。

図1 不育症の原因の頻度
図1 不育症の原因の頻度

 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会診療ガイドライン2020産科編「CQ204反復流産・習慣流産」で述べられている、それぞれの検査を推奨するレベル(推奨する強さはA,B,Cの順です)、抗リン脂質抗体A、子宮形態異常B、夫婦染色体検査Aでした(表1)。
 糖尿病、甲状腺機能低下症は古くから習慣流産の原因と考えられてきましたが、研究は十分ではなく、原因かどうかははっきりしていません。
 生殖内分泌異常、免疫異常、血栓性疾患、遺伝子変異、精神的ストレスなどの関与も報告されていますが、直接原因になっていることを示しているわけではありません。

抗リン脂質抗体症候群

 抗リン脂質抗体症候群Antiphospholipid syndrome(APS)は治療法が確立された唯一の原因であり、適切に検査することが大切です。診断基準に示されているのは、妊娠10週以降の胎児形態異常のない1回以上の子宮内胎児死亡、重症妊娠高血圧性症もしくは胎盤機能不全による1回以上の妊娠34週以前の早産、妊娠10週未満の3回以上連続する習慣流産です(表2)。欧州ヒト生殖医学会不育症ガイドラインでは2回の流産でもAPSの検査をすることを推奨しています。子宮内胎児発育遅延、羊水過少症、血小板減少症もAPSを疑う症状です。初期流産よりも子宮内胎児死亡が特徴です。

表2 抗リン脂質抗体症候群診断基準
表2 抗リン脂質抗体症候群診断基準

 血液の凝固時間を延長させるグログリンであるループスアンチコアグラントLupus Anticoagulant(LA)の測定が特に大切です。LAの検査では1種類の検査ではLAをみつけることができないため2種類以上の検査を行うことが推奨されています。具体的にはActivated partial thromboplastin time(APTT)を用いたリン脂質中和法、Russels’viper venome time(RVVT)を用いた希釈ラッセル蛇毒法が委託検査可能であり、これらを両方とも測定します。抗カルジオリピンβ2グリコプロテインI複合体抗体(抗CLβ2GPI抗体)と抗カルジオリピン抗体はどちらかを測定すればいいです。抗CLβ2GPI抗体はβ2GPI存在・非存在の両方の測定を検査会社に依頼し、β2GPI存在>β2GPI非存在の時に血栓症・不育症タイプと診断します。いずれの検査も陽性の時に12週間開けて再検査し、陽性が持続するときにAPSと診断します。
 抗リン脂質抗体が不育症を起こす機序については、胎盤の血栓症が血流障害を起こすというのが主流です。代表的なものとして、Randらは、絨毛組織は凝固抑制蛋白であるannexin A5のシールドに覆われており、抗リン脂質抗体が絨毛膜表面のリン脂質に結合するとannexin A5のシールドが剥がれて凝固亢進することを示しました。しかし、胎盤の血栓症で初期流産を説明できません。Quenbyらは、抗リン脂質抗体は脱落膜螺旋動脈内に侵入した絨毛組織の分化を抑制することを証明しました。一方、Girardiらは、補体C3,C5の過度な活性化によって流死産を引き起こすという新たな機序を報告しました。

夫婦染色体均衡型転座

 夫婦の染色体検査によって約5%の染色体の変化がみつかります。均衡型転座(相互転座およびロバートソン型転座)が最も多く、早期流産を繰り返す方に多い傾向があります。卵子、精子が創られる減数分裂の過程で一定の割合で正常な染色体、異常な染色体となり、異常な染色体の卵子、精子が受精すると流産となります。正常な染色体の卵子、精子も発生するため、出産は可能です。均衡型転座の多くは両親から受け継いでおり、ご兄弟姉妹にも影響が及ぶため、検査実施前に結果のもたらす意味についてよく考えてから検査を受けてください。夫婦どちらに異常があるかを特定しないで説明を受けることもできます。

子宮形態異常

 経腟超音波検査によって先天性の子宮形態異常があるかどうかをスクリーニングします。子宮形態異常がありそうな場合はMRI、子宮鏡を組み合わせて確定診断をします。中隔子宮、双角子宮、単角子宮、重複子宮は不育症患者さんの3.2-10.4%にみられ、子宮内胎児死亡、早産、骨盤位(逆子)とも関係します。

胎児(胎芽)染色体異常

 卵子は減数分裂によって染色体数を46本から23本に減らしますが、女性の加齢に伴って、染色体が不均等に分離して染色体数の少ない卵子(22本)や多い卵子(24本)が形成される頻度が高くなります。流産内容物である胎児(胎芽)の70-80%に染色体異常がみつかります。流産では常染色体の16番が3本ある16トリソミーの胎児が最も多く見つかります(図2)。受精卵(胚盤胞)の染色体を診断した研究では肉眼的に良好胚でも染色体数的異常が多いことがわかってきました。
 G分染法と比較して、比較ゲノムハイブリダイゼーション、次世代シークエンサーによる検討ではさらに多くの胎児染色体数的異常が確認されており、遺伝子・エピゲノムレベルまで含めると胎児異常による不育症は相当多いことが推定されます。

図2 流産児にトリソミーがみられた常染色体番号
図2 流産児にトリソミーがみられた常染色体番号
▽印刷してお読みになりたい方はPDFをご利用ください

印刷用PDFのダウンロード(PDF 1.79MB)

©一般社団法人日本生殖医学会
掲載されている情報、写真、イラストなど文字・画像等のコンテンツの著作権は日本生殖医学会に帰属します。本内容の転用・複製・転載・頒布・切除・販売することは一切禁じます。

このページの先頭へ