不育症の4大原因は、抗リン脂質抗体陽性、子宮形態異常、夫婦どちらかの染色体異常保因、胎児(胎芽)染色体異常です(表1)。「原因」とは、次回妊娠での流産・死産に強く影響を及ぼす因子のことです。
*非妊時に測定する。健康保険は一つしか認められていないが、両方とも測定することが推奨されている。
**抗CL・β2GPI複合体抗体もしくは抗カルジオリピン抗体のどちらかでよい。
***国際抗リン脂質抗体学会は習慣流産を診断基準としているがESHRE、日本の抗リン脂質抗体症候群ガイドラインは2回の初期流産も含めている。
不育症患者1,676組を対象とした研究では、原因の割合は、抗リン脂質抗体陽性例10.7 %、子宮形態異常3.2%、夫婦どちらかの染色体異常保因6%、糖尿病、甲状腺機能低下症などの内分泌異常12%の頻度であり、約70%が原因不明でした。臨床的には流産子宮内容物(胎児もしくは胎芽)の染色体検査が行われないことが多いため原因不明となります。胎児・胎芽染色体検査が行われた不育症482組の原因頻度を調べたところ、41%は胎児染色体異常のみがみられ、胎児染色体正常を示す真の原因不明は25%に留まることがわかりました(図1)。
この研究では、胎児染色体検査が複数回実施されている症例では、染色体異常は異常を繰り返し、正常核型は正常を繰り返す傾向にありました。米国の同じような研究で、胎児染色体異常が50%、真の原因不明が5%ということも発表されました。流産を繰り返す前に出産したことのある症例もしくは40歳以上の女性では胎児染色異常が高頻度であり、抗リン脂質抗体症、子宮形態異常は稀でした。
甲状腺機能低下症は古くから習慣流産の原因と考えられてきましたが、最近の研究では潜在性甲状腺機能低下症や抗甲状腺抗体陽性例に対する治療は必要ないことがわかってきました。
生殖内分泌異常、免疫異常、血栓性疾患、遺伝子変異、精神的ストレスなどの関与も報告されていますが、直接原因になっていることを示しているわけではありません。
1)抗リン脂質抗体症候群
抗リン脂質抗体症候群Antiphospholipid Syndrome(APS)は治療法が確立された唯一の原因であり、適切に検査することが大切です。国際抗リン脂質抗体学会の診断基準に示されている臨床症状は以下の通りです。
欧州ヒト生殖医学会不育症ガイドラインや日本の抗リン脂質抗体症候群合併症妊娠ガイドラインでは2回の流産でもAPSの検査をすることを推奨しています。子宮内胎児発育遅延、羊水過少症、血小板減少症もAPSを疑う症状です。初期流産よりも子宮内胎児死亡が特徴です。血液の凝固時間を延長させるグロブリンであるループスアンチコアグラントLupus Anticoagulant(LA)の測定が特に大切です。LAの検査では1種類の検査ではLAをみつけることができないため2種類以上の検査を行うことが推奨されています。具体的にはActivated partial thromboplastin time(APTT)を用いたリン脂質中和法、Russels’viper venome time(RVVT)を用いた希釈ラッセル蛇毒法が委託検査可能であり、これらを両方とも測定します。抗カルジオリピンβ2グリコプロテインI複合体抗体(抗CLβ2GPI抗体)と抗カルジオリピン抗体はどちらかを測定すればいいです。抗CLβ2GPI抗体はβ2GPI存在・非存在の両方の測定を検査会社に依頼し、β2GPI存在>β2GPI非存在の時に血栓症・不育症タイプと診断します。いずれの検査も陽性の時に12週間開けて再検査し、陽性が持続するときにAPSと診断します。
たくさんの検査が出回っていますが、検査結果に基づいて治療を行った場合、出産率がよくなることがきちんと調べてある検査を受けてください。
抗リン脂質抗体が不育症を起こす機序については、胎盤の血栓症が血流障害を起こすと考えられています。代表的なものとして、Randらは、絨毛組織は凝固抑制蛋白であるannexin A5のシールドに覆われており、抗リン脂質抗体が絨毛膜表面のリン脂質に結合するとannexin A5のシールドが剥がれて凝固亢進することを示しました。しかし、胎盤の血栓症で初期流産を説明できません。Quenbyらは、抗リン脂質抗体は脱落膜螺旋動脈内に侵入した絨毛組織の分化を抑制することを証明しました。一方、Girardiらは、補体C3、C5の過度な活性化によって流死産を引き起こすという新たな機序を報告しました。
2)カップルの染色体均衡型転座
染色体検査によって5-10%のカップルに染色体の変化がみつかります。均衡型転座(相互転座およびロバートソン型転座)が最も多く、早期流産を繰り返す方に多い傾向があります。卵子、精子が創られる減数分裂の過程で一定の割合で正常な染色体、異常な染色体となり、異常な染色体の卵子、精子が受精すると流産となります。正常な染色体の卵子、精子も発生するため、出産は可能です。均衡型転座の多くは両親から受け継いでおり、ご兄弟姉妹にも影響が及ぶため、検査実施前に結果のもたらす意味についてよく考えてから検査を受けてください。カップルのどちらに異常があるかを特定しないで説明を受けることもできます。
3)子宮形態異常
経腟超音波検査によって先天性の子宮形態異常があるかどうかをスクリーニングします。子宮形態異常がありそうな場合はMRI、子宮鏡を組み合わせて確定診断をします。中隔子宮、双角子宮、単角子宮、重複子宮は不育症患者さんの3.2-10.4%にみられ、子宮内胎児死亡、早産、骨盤位(逆子)とも関係します。
4)胎児(胎芽)染色体異常
卵子は減数分裂によって染色体数を46本から23本に減らしますが、女性の加齢に伴って、染色体が不均等に分離して染色体数の少ない卵子(22本)や多い卵子(24本)が形成される頻度が高くなります。流産内容物である胎児(胎芽)の70-80%に染色体異常がみつかります。流産では常染色体の16番が3本ある16トリソミーの胎児が最も多く見つかります(図2)。受精卵(胚盤胞)の染色体を診断した研究では肉眼的に良好胚でも染色体数的異常が多いことがわかってきました。G分染法と比較して、比較ゲノムハイブリダイゼーション、次世代シークエンサーによる検討ではさらに多くの胎児染色体数的異常が確認されており、遺伝子・エピゲノムレベルまで含めると胎児異常による不育症は相当多いことが推定されます。
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