不妊治療で排卵誘発薬を使う場合には、(1)患者さんに排卵障害がある場合、(2)排卵障害はないが、タイミング指導などでは妊娠しないので治療をステップアップする場合(原因不明不妊も入ります)、あるいは人工授精を行う場合、(3)生殖補助医療を行うために採卵をする場合、が考えられます。
排卵障害がある場合には、その障害の発生部位と重症度で排卵誘発剤を選択します。
なお、生殖補助医療では多数の成熟卵を採取するのが目的ですから、一般的にはゴナドトロピン製剤などを用いて強力に刺激します。これを調節卵巣刺激といいます。
(1)クロミフェンクエン酸塩製剤およびシクロフェニル製剤
クロミフェンクエン酸塩製剤(商品名:クロミッド)およびシクロフェニル製剤(商品名;セキソビッド)は性機能中枢である視床下部に作用してゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の分泌を高め、最終的に下垂体からの黄体化ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を促進します。
内服剤であり、通院が少なく副作用が少ないので投与しやすいため、軽度から中等度の比較的軽い視床下部性排卵障害に使われます。また、排卵があっても妊娠しないような症例、あるいは人工授精を行う周期で適切な排卵日を設定するため、などにも頻用されています。副作用は少ないですが、若干の多胎妊娠が報告されています。
(2)ゴナドトロピン製剤
注射剤であるゴナドトロピン製剤の対象疾患は、クロミフェンやシクロフェニルが無効な無排卵周期症あるいは第1度無月経および第2度無月経です。ゴナドトロピン製剤は強力な排卵誘発効果が期待されている一方で、副作用として多発排卵による多胎妊娠(周期別多胎率約20%)や卵巣過剰刺激症候群などの発生頻度が高いことが報告されているので、使用にあたっては十分な注意が必要です。
ゴナドトロピン製剤には、①閉経後の女性の尿から精製したFSHとLHの両方を含有するhMG製剤、②hMG製剤からLH成分を除去してFSHのみにした精製FSH製剤、③製剤の安定供給など見地から世界的な主流となっている遺伝子組換型FSH製剤があります。遺伝子組換型FSH製剤は特殊な投与デバイスを用いて自己注射が可能な製品となっています。ゴナドトロピン製剤はいずれも強力な排卵誘発効果がありますが、LHとFSHの含有量の違いや力価の違いで多様な製剤があり、患者さんの状態に応じて薬剤を選択します。
一般に、hMGやFSH製剤を連日投与して卵胞の発育を促し、一定の大きさに達したら、LH作用のあるヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic Gonadotropin:hCG)を投与して排卵を誘起させます。
製剤の種類 | 製剤名と単位(IU)(製造販売元・販売) | FSH:LH 含有比 |
---|---|---|
①hMG製剤 | HMG筋注用75/150単位「あすか」 (あすか製薬) |
1:0.33 |
HMG注「フェリング」 75/150 (フェリング・ファーマ) |
1:1 | |
HMG筋注用「F」 75/150 (冨士製薬工業) |
1:0.33 | |
②精製FSH | uFSH注用75/150単位「あすか」 (あすか製薬) |
1:0.0053 |
フォリルモンP 75/150 (冨士製薬工業) |
1:0.0053 | |
③遺伝子組換型FSH製剤 | ゴナールエフ 75/150/450/900 (メルクファーマ) |
1:0 |
(3)高プロラクチン性排卵障害に使用するドパミン作動薬
産後に母乳を分泌させるホルモンをプロラクチンといいますが、このプロラクチンが産後以外の時期に高くなると、排卵障害の原因となります。これを高プロラクチン血症性排卵障害といいます。この場合は、ドパミン作動薬であるブロモクリプチン(商品名:パーロデル)やカルベゴリン(商品名:カバサール)を投与することで血中プロラクチン値が低下すると、高い確率で排卵が回復します(症例別排卵率約80%)。
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