成人男性の精巣では、生涯を通じて精子がつくられますが、加齢とともに少しずつその機能が低下します。精巣の大きさも少しずつ小さくなり、男性ホルモンをつくる力も緩やかに低下しますが、両方の精巣が無くならない限り「去勢」状態になることはありません。女性でみられる閉経のような変化が無いことや、個々の健康状態にも違いがあることから、男性では年齢で不妊症に区切りをつけることはなかなかうまくできません。体外受精や顕微授精などの生殖補助医療の成績と男性の加齢との関係について様々な報告がされています。その中のいくつかを簡単に紹介します。
1)精子数は減るのでしょうか?
1日あたりにつくられる精子数は加齢とともに減少するとされていますが、精液量も減ってしまうため精子濃度はあまり変わらないとされています。最近の報告例を表1に示します。過去の報告をまとめたものでも、30歳代と比較すると50歳代では精液量は3~22%、精子運動率は3~37%、精子正常形態率は4~18%低下すると報告されています。一般に高齢の男性の配偶者は高齢であることから、精液所見の低下がどの程度不妊症に関係するかを知るのは難しいと考えられます。また、運動精子を認めれば体外受精や顕微授精などで妊娠出産を期待できますので、精子減少と不妊症を結びつけるのはさらに複雑です。
2)体外受精や顕微授精の成功率は下がるのでしょうか?
運動精子が存在しても、その精子の機能が低下していれば、体外受精や顕微授精などの生殖補助技術によるによる受精率や妊娠率が低下する可能性があります。男性の加齢と生殖補助技術の成績に関する過去の報告には、加齢により成績が低下するというものもあればあまり変わらないとするものがあり、統一された見解がないのが現状です。配偶者の年齢も考慮する必要がありますが、最近の報告の中には女性と同様、男性でも35歳を過ぎると生殖補助医療による出産率が低下するとするものもみられています。
3)流産に影響を与えてしまうのでしょうか?
比較的多数の症例対照研究によると、女性の年齢や他の要因の影響を除いても、男性の加齢によって自然流産の確率が上昇すると報告されています。また、45歳より高齢の男性では25歳未満と比較して自然流産の確率が約2倍になるとするものや、自然流産に与える影響は男性の40歳以上は女性の30歳以上に相当するとの報告もあります。
年代 | <40歳 | 40~49歳 | ≥50歳 |
人数 | 233 | 323 | 116 |
年齢 | 35.5±2.9 | 44.1±2.9 | 54.3±4.5 |
精液量(mL) | 3.7±8.5 | 2.7±1.5 | 2.1±1.5 |
精子濃度(106/mL) | 76±55 | 76±63 | 59±57 |
精子運動率(%) | 57±14 | 53±16 | 43±18 |
総運動精子数(106) | 262±116 | 160±163 | 110±152 |
Stewart AF and Kim ED. Fertility concerns for the aging male. Urology 78:496-499, 2011 よりデータを引用し作成
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