35歳以上になると女性の妊孕能が低下することが知られています(注1)。この背景には加齢に伴う卵子の異常の増加や卵巣予備能の低下が影響していると考えられます(注2)。
では若ければ若いほど良いのかというとそうでもありません。例えば10代の妊娠では染色体異常を伴わない児の先天的な構造異常のリスクが20代に比べて高くなることが知られています(下図参照)。この調査結果によると胎児構造異常の視点からは23歳から32歳の10年間が妊娠するのに最もよい時期だと記載されています。
では次に無事に出産するという視点から考えてみましょう。周産期における母体や新生児の死亡リスクを考えると、30歳を超えるとそのリスクが緩やかに上昇し、35歳以上になると児のNICU入院率や早期新生児死亡のリスクがさらに上昇し、40歳以上になると分娩時の帝王切開率が増加し母体周産期死亡率が高くなることが知られています。これらの頻度は低いので、たとえ40歳で妊娠されたとしても過度に恐れることはありませんが、ハイリスク妊娠として注意深い周産期管理を行う必要があります。
以上のことから妊娠・分娩に最適な年齢はいくつか、という問いに対しては20代前半から30代前半が最適と考えられます。
注1)妊孕能について
妊孕能とは、妊娠を成立させるために必要な生殖能力のことです。女性であれば子宮や卵巣・卵管の状態が正常であり、排卵や月経周期が正常であること、さらに卵子の状態が健康であることが重要です。
注2)卵巣予備能について
卵巣予備能は、排卵する卵子の元となる原始卵胞がどれだけの卵巣に残っているかで評価されます。現在の生殖医療においては、卵巣予備能の評価として抗ミュラー管ホルモン(AMH)を測定することが一般的です。このAMHは加齢に伴い低下しますが、AMHも30代後半からはその減り方が急になっていくことがわかっています。
母親の年齢と染色体異常を伴わない胎児構造異常の相対リスク比の関係性。Boglárka Pethőらの論文をもとに作成。(出典:Boglárka Pethőら. BJOG; 130(10): 1217-1225, 2023)
印刷用PDFのダウンロード(PDF 306KB)
©一般社団法人日本生殖医学会
掲載されている情報、写真、イラストなど文字・画像等のコンテンツの著作権は日本生殖医学会に帰属します。本内容の転用・複製・転載・頒布・切除・販売することは一切禁じます。