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一般社団法人日本生殖医学会

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一般のみなさまへ

質問不育症
Q20.不育症の治療にはどんな方法があり、どのように行うのですか?

回答

抗リン脂質抗体症候群に対する低用量アスピリン・ヘパリン療法

 流死産予防としては低用量アスピリン・未分画ヘパリンを妊娠初期から投与するのが標準的治療法であり、出産率は70-80%です。これは予防であって、早発型妊娠高血圧症候群、胎児機能不全を発症してから投与しても児の救命はできないので、妊娠初期から開始します。
 妊娠4週から低用量アスピリン内服と未分画ヘパリン(5000単位x 2回/日、皮下注射)の自己注射を開始します。抗体価が高い場合は妊娠前から内服による抗凝固療法を行う場合もあります。妊娠36週0日でアスピリンを中止、ヘパリンは分娩の前日まで持続します。分娩後は血栓症予防のためにヘパリンを再開します。治療の開始、終了時期に関する臨床試験は行われていませんので、投与開始、中止の時期は主治医の指示に従ってください。なお、アスピリンは日本の医薬品添付文書では妊娠28週以降禁忌とされていますが、母児への影響はあまり見られないことがわかっています。
 なお、抗リン脂質抗体陰性で抗核抗体だけが陽性の場合、治療の必要はありません。

夫婦染色体均衡型転座に対する着床前染色体構造異常検査
Preimplantation genetic testing for chromosomal structural rearrangement (PGT-SR)

 染色体検査を行う前に遺伝カウンセリングを受けてください。
 着床前検査Preimplantation genetic testing (PGT)とは、体外受精によって得られた受精卵の細胞の一部を採取して診断し、正常もしくは均衡型の受精卵を胚移植することで流産を予防する方法です。現在、着床前染色体構造異常検査Preimplantation genetic testing for chromosomal structural rearrangement (PGT-SR)と呼ばれています。着床前検査に対しては、生命の選別であり、優生思想につながるという批判があり、日本産科婦人科学会は極めて高度な技術を要し、高い倫理観のもとに行われる医療行為として重篤な遺伝性疾患に限って実施してよいとする見解を策定しています。
 PGT-SRによる出産率は14-58%と報告されています。一方、実施しない場合の(自然妊娠の)出産率は診断後初回妊娠で32-65%、累積的には64-90%であり、PGT-SRの自然妊娠に対する優位性は示されていません。
 日本で行われた研究では、PGT-SRと自然妊娠の比較において累積出産率に差は認められませんでした。PGT-SRを行うと、出産できない人が出産できるようになる、という意味ではありません。

子宮形態異常奇形に対する手術

 中隔子宮、双角子宮、単角子宮、重複子宮では不育症、早産、骨盤位と関係することがわかっています。双角子宮に対する形成手術、中隔子宮に対する子宮鏡下中隔切除が行われていますが、手術をしなくても出産できる方は多く、手術の出産率改善への効果ははっきりしていません。これは、薬の知見と異なり、手術の効果を科学的に確かめる方法に限界があるからです。
 いくつかの研究では、中隔子宮に対する子宮鏡下中隔切除術では出産率が改善する傾向が認めらました。双角子宮に対する形成手術は出産率の改善はみられませんでした。
 一方、最近報告された国際共同研究では、257例の1回以上流産歴のある中隔子宮を持つ女性の次回妊娠帰結を調べ、中隔切除群では53% (80/151)、非手術群では71.7% (76/106)の出産率であり、出産率は改善せず、流産率、早産率も減少しませんでした。手術の効果は今のところはっきりしていません。

胎児染色体数的異常に対する着床前染色体異数性検査
preimplantation genetic testing for aneuploidy (PGT-A)

 不育症患者さんにおいて、他の異常がなく胎児染色体異常が認められた症例は41%を占めました。胎児染色体異常がみられたときの次回妊娠の出産率は、胎児染色体が正常であった時よりも有意に高率でした(62% vs 38%、オッズ比2.6)。胎児染色体異常が原因の場合は今後出産に至りやすいという意味です。
 欧米では、原因不明習慣流産に対して着床前染色体異数性検査(preimplantation genetic testing for aneuploidy: PGT-A)が行われています。
 原因不明習慣流産に対するPGT-Aと非PGT-Aの観察研究では、出産率は32%(63/198)、34%(68/202)、流産率は20%(18/88)、24%(25/104)であり、出産率、流産率ともに改善されませんでした。この研究では、過去の流産おいて、胎児(胎芽)染色体は調べてありませんでした。
 日本産科婦人科学会は、PGT-Aを倫理的理由から禁止してきましたが、高齢妊娠の増加に伴いニーズが増加したため、2017年から2018年6月までの間に、原因不明習慣流産に対する臨床研究を実施ました。対象は、不妊症のために体外受精を既に行っており、2回以上の臨床的流産既往があり、過去の流産において胎児(胎芽)染色体異数性を認めた症例でした。その結果、PGT-Aは出産率を改善することはなく、流産率も減少させませんでした。胚移植あたりの出産率は上昇し、生化学妊娠は減少しました。
 PGT-Aの効果はいまのところはっきりしていません。

原因不明不育症に対する薬物療法

 胎児(胎芽)染色体が正常の原因不明不育症に対する治療法は確立されていません。必ずしも薬剤投与の必要性はなく、出産可能です。
 原因不明習慣流産に対し低用量アスピリン、アスピリン・ヘパリン療法、プロゲステロン腟座薬の効果は認められていません。夫リンパ球免疫療法、ステロイド、G-CSFの効果も否定的であり、イムノグロブリン、タクロリムスなども効果ははっきりしていません。これらを投与する場合は、研究的な治療であり、適応外使用であるため倫理委員会の承認と患者さんの同意を得ることが臨床研究法で定められています。
 原因不明不育症に関する遺伝子は187個報告されており、“流産しやすい体質“があることがわかってきました。たくさんの遺伝子で制御されているため、そのうちの一つを調べても意味はありません。体質は治せませんが、危険因子である加齢、喫煙、肥満には注意しましょう。

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