1)女性は年齢が増加すると妊孕性(妊娠する力)が低下します
女性は加齢により妊孕性(妊娠する力)が低下します。
女性の加齢による妊孕性の低下には、卵巣内の卵子数の減少、卵子の減数分裂異常割合の増加、体内のホルモン環境の変化、合併症の増加などの要因が関連しています。
女性の加齢と不妊症を考えるデータとして、避妊法が確立されていない17~20世紀における女性の年齢と出産数の変化について調べた研究があります。出産数は30歳から徐々に減少し、35歳を過ぎるとその傾向は顕著になり、40歳を過ぎると急速に減少します(図1)。
また、月経1周期あたりで自然妊娠が成立するカップルの割合が、女性の加齢により低下することも報告されています。女性の年齢が21~24歳のカップルの比率を1.00とすると、25~27歳では0.91、28~30歳では0.88、31~33歳では0.87、34~36歳では0.82、37~39歳では0.60、40~45歳では0.40と、加齢により自然に妊娠する割合が減ることが報告されています。つまり、女性の加齢による妊孕性の低下は、平均寿命がのびてもあまりその変化は変わらない現象であり、加齢による妊孕性の低下は、必然的に自然妊娠をむずかしくし、不妊症を増加させることになります。
女性の年齢の影響を見るには、提供精子を用いた人工授精(非配偶者間人工授精(:AID)の治療成績が適しています。この治療は夫が無精子症の場合に健康な男性から提供された精子を用いて妊娠をはかるもので、女性はほとんどの場合不妊ではないと考えられます。しかし前に述べた自然妊娠の場合と同様に、AIDによる妊娠率は女性の加齢に伴い低下しました。12周期までのAIDの妊娠率は30歳以下では74%でしたが、35歳以上では54%と、その低下は顕著に認められました。
妊孕率は、女性1,000人あたりの出生数(17~20世紀のアメリカ、ヨーロッパ、イランなど10ヶ所のデータ:Henry, L. (1961). Some data on natural fertility. Eugenics Quarterly, 8(2), 81-91.)を元に、20-24歳を100%として計算した。年齢の増加に伴い(特に35歳以降)妊孕率の低下が認められる。データは平均±標準偏差で示した。(2016年12月12日一部内容を改訂)
2)女性は加齢により婦人科疾患の罹患率が増加します
加齢により、卵管炎、子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症等に罹患する確率が増し、長期化して増悪し、子宮、卵巣および卵管の形態学的異常のリスクが増大することも考えられています。クラミジアなどによる卵管炎においては、卵管やその周囲の炎症が起こり、卵管が狭くなったり、塞がったり、または、卵管周囲の癒着が生じるため、卵管妊娠や卵管因子による不妊が起こります。子宮筋腫は年齢とともに罹患率が増加し、筋腫核が増大し、子宮腔内に突出して胚の着床や成長を障害することが考えられます。子宮内膜症においても、卵管周囲の癒着により、卵管の動きが制限され、卵子が卵管に入れなくなることが考えられます。また、子宮内膜症における骨盤内環境の悪化が胚の成長や着床を障害することが指摘されています。子宮腺筋症は子宮内膜組織が子宮の筋肉内に入り込む疾患で、慢性炎症や子宮内膜への影響などにより胚の着床障害や流産への影響が指摘されています。
3)女性は年齢が増加すると生殖補助医療による妊娠率・生産率が低下します
女性は、30歳以降妊娠率が低下します。35歳前後からは、妊娠率の低下と流産率の増加が起こり、たとえ体外受精や顕微授精などの生殖補助医療を行って受精を起こさせることができても、妊娠率・生産率は低下します(図2)。また、生殖補助医療の発展により様々な検査や治療がオプションとして追加されるようになりました。しかし、治療開始周期あたりの妊娠率は2010年から2022年で若干の上昇を認めたものの、加齢による妊娠率の低下傾向に対して大きな改善を得るには至っていません(図3)。
わが国における生殖補助医療による治療成績を示した
(https://www.jsog.or.jp/activity/art/2022_JSOG-ART.pdf)。
日本産科婦人科学会 ARTデータブック2022
加齢に伴い(特に35歳以降)妊娠率・生産率の低下と流産率の増加が認められる。
ET:胚移植
わが国における生殖補助医療による治療成績について、各年の日本産科婦人科学会ARTデータブックを参考に図示化し、比較を行った。
(https://www.jsog.or.jp/activity/art/2022_JSOG-ART.pdf
日本産科婦人科学会 ARTデータブック2022, 2019, 2016, 2013, 2010)。
近年、若干の成績改善を認めるものの、加齢に伴う妊娠率の低下傾向は持続している。
4)女性は年齢が上昇すると赤ちゃんの死亡率が上昇する傾向があります。
日本において、近年は周産期死亡率(妊娠22週以降の胎児や生後1ヶ月以内の新生児の死亡率)も大きく改善していますが、女性の年齢が上昇すると、周産期死亡率は上昇する傾向があります。もっとも、周産期死亡率が低いのは、25~34歳です(図4)。
わが国における周産期死亡率について、各年の厚生労働省人口動態統計を参考に図示化し母の年齢による比較を行った。周産期死亡(妊娠22週以後の死産と早期新生児死亡の合計)
資料:厚生労働省人口動態統計(2000年, 2013年, 2023年)
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