人工授精(AIH:Artificial Insemination with Husband’s semen)は、洗浄・濃縮処理を施した運動性の良好な精子を、排卵のタイミングに合わせて子宮内に直接注入する不妊治療法です。精液中には、死んだ精子、炎症細胞、細菌、プロスタグランジンなどが含まれており、これらは子宮収縮や子宮内膜炎などの炎症の原因となるため、洗浄処理によって除去されます。
AIHは以下のような症例に適応があります。
AIHは自然周期で行うこともありますが、排卵誘発剤(クロミフェン、レトロゾール、ゴナドトロピンなど)を併用することで妊娠率が上昇します。ただし、多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクもあるため、医師による慎重な卵胞のモニタリングと個別調整が必要です。
洗浄後の精子は通常より受精能力がある時間が短くなることより、排卵前日から当日にAIHを行うことが望ましいとされています。
AIHは安全性の高い治療ですが、まれに有害事象がみられることがあります。処置後に下腹部の痛みや不快感、わずかな出血が起こることがありますが、多くは自然におさまります。ごくまれに感染やアレルギー反応が起きることもありますが、適切に対応すればほとんどの場合は改善します。
AIHの妊娠率は1周期あたり約5~10%(排卵誘発を併用した場合で10~15%)とされています。調整後の総運動精子数が500~1000万未満の場合、妊娠率が著しく低下するため、体外受精(IVF)への移行が推奨されます。またAIHの施行回数については、3~6回を上限とするのが一般的です。6回以上繰り返しても妊娠に至らない場合は、治療ステップアップの検討が必要です。
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